top of page

アートは、社会をどう変えるのか

執筆者の写真: riemifune
riemifune
11 分前
読了時間: 5分

― ヘラルボニーの実践とアボリジナル・アートの歴史から考える、価値創造と行動変容 ―





「社会にとってよいこと」を伝えれば、人々の意識や行動は変わるのでしょうか。

社会課題の解決を目指すとき、私たちはつい、課題の深刻さや取り組みの必要性を伝えようとします。しかし、それだけでは、もともと関心のある人にしか届かないこともあります。

では、人々が自然に興味を持ち、これまでの見方を変え、新たな行動へと踏み出すきっかけは、どのように生まれるのでしょうか。

この問いを、「アート」を通じて考える機会を設けました。


2026年10月22日、第32回SMRC Webinarシリーズ「Greater social goodを目指して」において、株式会社ヘラルボニー 執行役員 CLOの玄唯真先生、文化人類学者の窪田幸子先生(芦屋学園理事長・芦屋大学学長/神戸大学名誉教授)をお迎えし、それぞれ実践と研究の立場からお話しいただきました。


「社会にいいから」ではなく、「かっこいいから」

玄先生からは、ヘラルボニーが取り組む、アートを通じた新たな価値創造と社会変革についてお話しいただきました。

障がいのある人の作品だから購入するのではなく、まず「かっこいい」「欲しい」と感じ、作品そのものの魅力に惹かれる。そして、作品を手にした後で作家の背景を知ることで、障がいに対する見方が自然に変わっていく。

社会的意義を入口にするのではなく、魅力を入口にして社会との接点を増やす。

この考え方は、ソーシャルマーケティングにおいて大切にしている、対象者の立場から価値を考え、自発的な行動を支援するという発想にも通じます。

また、アートのライセンス契約や企業との共創を通じて、作家の表現を商品や空間など日常生活のさまざまな場面へと広げる取り組みもご紹介いただきました。

印象深かったのは、事業の成果だけでなく、その過程で生まれる葛藤についても率直にお話しくださったことです。

アートの才能が評価されることで、才能のある人とそうでない人との間に新たな分断が生まれないだろうか。企業が考える成功は、本当に作家本人の望む成功なのだろうか。

社会をよりよくしようとする取り組みだからこそ、意図しない影響にも目を向ける。その真摯な姿勢も、大きな学びとなりました。


アボリジナル・アートが変えた社会のまなざし

続いて窪田先生からは、オーストラリア先住民の歴史や文化、アボリジナル・アートが社会に受け入れられてきた過程について、長年の現地研究に基づくお話をいただきました。

かつて十分に評価されてこなかったアボリジナル・アートが、美術館やギャラリー、国際的なアート市場などを通じて評価されるようになり、その文化や人々に対する社会のまなざしにも変化が生まれていったこと。

そこには、政府やアートセンターをはじめとする多くの関係者の長年にわたる取り組みがありました。

特に心に残ったのは、アートが持つ「ソフトな力」です。

歴史的な差別や文化の違いを正面から説明するだけでは、受け止めてもらうことが難しい場合もあります。しかし、アートの美しさや魅力に惹かれたことをきっかけに、作品の背景にある文化や歴史への関心が生まれることがあります。

そして、もう一つの大切な問いは、

「作品が1億円で売れることは、作家本人にとって本当に幸せなのだろうか」

ということです。私たちは、収入が増えること、有名になることを成功と考えがちです。しかし、本人にとっては、地域や家族とのつながり、文化の継承、周囲の人々と分かち合うことに、より大きな価値があるかもしれません。

自分にとっての「当たり前」が、他者にとっての「当たり前」とは限らない。

異なる文化や価値観を理解するには、こちらの基準で判断するのではなく、相手が何を大切にしているのかを丁寧に知ろうとする姿勢が欠かせないことを学びました。


学生たちに生まれた、気づきと新たな問い

講演後、学生たちから多くの感想が寄せられました。

玄先生のお話からは、「社会にいいから」ではなく「かっこいいから」という入口をつくることの重要性について、多くの学生が言及していました。

また、障がいのある方のケア施設でアルバイトをしている学生は、自分自身の「支援する側」という意識を問い直し、これからは互いの価値を認め合う関係を大切にしたいと記していました。

窪田先生のお話からは、「自分にとっての当たり前」を問い直す感想が数多く寄せられました。

カンボジアで教育支援に携わった学生は、自分たちがよいと考えた活動が、本当に現地の子どもたちの望むものだったのかを振り返っていました。

さらに、免許返納、一次救命処置、重複多剤の予防、医療のエコ活動など、自分たちの研究や実践に今回の学びを生かしたいという声もありました。

学生たちの感想を読みながら、講演を通じて知識が増えただけでなく、自分自身の価値観を見直し、新たな問いが生まれていることをうれしく感じました。


「社会を変える」から、「誰と、どのような社会をつくるのか」へ

今回のお二人のお話には、共通する大切な視点がありました。

それは、アートには、これまで十分に認識されてこなかった価値に光を当て、人々の見方や社会との関わり方を変える可能性があるということです。

一方で、社会的な評価や経済的な成功が、必ずしも当事者にとって望ましい変化とは限りません。

だからこそ、私たちは問い続ける必要があるのだと思います。

「誰にとって、何が価値なのか」

「誰とともに、どのような変化を目指すのか」

ソーシャルマーケティングは、人々を一方的に望ましい方向へ動かすためのものではありません。一人ひとりが大切にしている価値を理解し、自ら納得して行動を選べる条件を整えることで、よりよい社会の実現を目指すものです。

今回の講演は、その原点を改めて考える機会となりました。今回生まれた問いや気づきを、これからの研究と実践につなげていきたいと思います。

玄先生、窪田先生、貴重な知見とご経験を惜しみなくお話しくださり、本当にありがとうございました。

そして、ご参加くださった皆さまにも心より感謝申し上げます。






 
 
 

コメント


記事: Blog2_Post
bottom of page