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万博で生まれた1,633回の対話、その先へ

執筆者の写真: Yoko Uryuhara
Yoko Uryuhara
10月30日
読了時間: 9分

― 対話研究フォーラム開催報告|アートが生んだ実践を、未来につながる知へ ―




2026年10月26日、同志社大学寒梅館ハーディーホールにて、対話研究フォーラム「万博で生まれた1,633回のDialogue、その先へ」を開催しました。あいにくの雨にもかかわらず、500名を超える方々にご来場いただき、芸術の実践から生まれた「対話」の価値と、それを社会へつなぐ可能性について考える機会となりました。


「万博で生まれた1,633回のDialogue、その先へ」。フォーラム開会時の会場
「万博で生まれた1,633回のDialogue、その先へ」。フォーラム開会時の会場

本フォーラムは、同志社大学ソーシャルマーケティング研究センター(SMRC)、一般社団法人日本ソーシャルマーケティング協会(JSMA)、一般社団法人Dialogue Theater(DT)の3団体が主催し、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会の共催により実現しました。

それぞれの立場から力を合わせ、対話の経験を一過性の出来事にとどめず、研究と実践、そして次世代へ受け継ぐための出発点としました。



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184日間、1,633回の対話が問いかけるもの


大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「Dialogue Theater ―いのちのあかし―」では、184日間にわたり、初対面の二人が向き合う約10分間の脚本のない対話が1,633回行われました。

自己紹介をしない。敬語を使わない。テーマをそのまま話さない。あらかじめ用意された筋書きもない。社会的な肩書きや立場をいったん離れ、目の前の一人と向き合う約10分間。そのやり取りを、周囲の人々が見守る。

これまでにない対話の場が、河瀨直美プロデューサーの比類ない感性と芸術性から創出されました。

そこで、人々は何を感じ、何に気づき、自分や他者をどのように捉え直したのでしょうか。そして、その経験は、その後の人々の生き方や社会との関わりに、どのような可能性をひらいたのでしょうか。

芸術が生み出したかけがえのない実践を、科学の視点から丁寧に読み解き、その価値を未来につながる知へと昇華させる。

これが、私たちSMRCが取り組む対話研究の出発点でした。


私自身も対話者としてこの場に参加しました。研究者として外から眺めるだけでなく、自ら

経験することで、その場で起きていることを深く理解したいと考えたからです。

『対話の中で、人は自分や他者、社会とどう向き合うのか』を根源的な問いとして、対話とは何か、どういう場や関わりによって成立するのか。そして、対話の中で自分や相手をどう捉え、その経験が次の関わりにどうつながるのか。この三つの側面から探究しようと試みてています。


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芸術と学術が向き合う場


第2部「対話から、共創へ―『いのち』の再創造を考える」では、パビリオン「いのちのあかし」の河瀨直美プロデューサー、パビリオンで対話者と目撃者の両方を経験された塩瀬隆之先生(京都大学総合博物館情報発信系教授)、今年の4月~7月、同志社大学でパビリオンの対話者との10分間のオンライン対話を経験した同志社大学商学部4年の刀根風生さんと3年の山本優太さんをお迎えしました。

SMRCセンター長の瓜生原葉子が対話の成り立ちや意味をめぐって言葉を交わし、塩瀬教授の学術的な視点、学生の経験も重ねながら議論を深めました。


研究の目的は、芸術の豊かさを単純な数値に置き換えることでも、実践を一つの尺度で評価することでもありません。一回ごとに異なる経験を尊重し、そのなかで生じた相互作用を丁寧に捉え、新しい問いと社会に生きる知へとつなぐことです。


まず、対話とは何かを考えるために、先行研究を整理しました。そこから理論的な枠組みを仮説として示し、実際に経験した方々の振り返りを分析し、何がわかり、何がまだわからないのかを明確にすることを試みました。10月26日はそれらの初期知見をお話ししました。


対話研究のプロセスと今後の展望を共有したフォーラムの様子(同志社大学寒梅館)
対話研究のプロセスと今後の展望を共有したフォーラムの様子(同志社大学寒梅館)

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初期分析から見えてきた「次の一歩」


SMRCは、パビリオンの実践に関わった35名(対話者31名、アテンダント3名、メンター1名)へのインタビューと、オンライン対話を経験した学生9名のアンケートへの回答を分析しました。

注目されたのは、対話者31名中29名が、対話経験後の人との関わり方や新たな選択肢、行動の可能性について語っていたことです。また、対話を経験した学生9名全員が、「自分の言葉で話すことができた」「丁寧に聴いてもらえた」と回答しました。

これらは探索的な調査による初期的な結果であり、対話による因果的な効果が実証されたわけではありません。しかし、対話が、その場での相互理解にとどまらず、その後の思考や行動を見つめ直す契機となる可能性を示唆しています。

さらに、今回の研究からは、心理的な安心感があらかじめ整った場でのみ対話が成立するのではなく、互いに聴き、応答し合う過程そのものが、安心して語れる関係を育む可能性も見えてきました。

対話とは、単に言葉を交わし、意見を一致させることではなく、自分と他者への理解を深め、新たな意味や行為の可能性をひらく営みなのではないか。

こうした問いを、研究者、表現者、学生、そして会場の皆さまとともに深める時間となりました。

河瀨直美氏と瓜生原葉子SMRCセンター長。芸術の実践と研究の視点を交えて語り合う
河瀨直美氏と瓜生原葉子SMRCセンター長。芸術の実践と研究の視点を交えて語り合う

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対話を見届けることの意味


パビリオンでホワイエ対話者と目撃者の双方を経験された塩瀬隆之教授からは、対話の成り立ちや、そのやり取りを見届けることの意味について、示唆に富む視点が示されました。

初対面の二人が自己紹介をせずに向き合う状況を、「友達が連れてきた友達と、突然二人きりになるときの気まずさ」にたとえ、通常の会話にある挨拶や肩書きの交換を省くことの意味に目を向けられました。

また、10分間の対話をバドミントンのラリーになぞらえ、軽快に言葉が交わされる場面もあれば、思いがけない強い言葉に戸惑う場面もあるなど、やり取りの多様さが、見届ける人にとっても対話のドラマを生み出していたことを語られました。

塩瀬隆之先生
塩瀬隆之先生

印象的だったのは、「私たちは普段、目の前の相手そのものではなく、その人の肩書きや役職に向かって話しているのではないか」という問題提起です。社会的な属性をいったん離れることで、人は相手の何を見つめ、どのように言葉を交わすのでしょうか。そして、そのやり取りを見届ける人には、何が生まれるのでしょうか。

塩瀬教授のご指摘は、対話を成り立たせる条件や相互作用の過程に加え、対話を目撃することの意味を探究するうえでも、重要な問いを投げかけるものでした。



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学生自身の言葉で、対話の経験を語る


フォーラムでは、刀根風生さん、山本優太さんの学生2名が、対話を経験した当事者の視点から、それぞれの気づきや考えを会場と共有しました。研究者が対話の意義を説明するだけでなく、若い世代が自らの言葉で経験を語り、その言葉に多くの人が耳を傾けることも、この場の大切な意義でした。







対話の経験を自らの言葉で伝えた学生登壇者、刀根風生さん・山本優太さん







二人は、一般社団法人日本ソーシャルマーケティング協会(JSMA)の学生会員でもあります。若者を研究の「受け手」としてだけでなく、問いを育み、社会へ発信する担い手として位置づけることは、SMRCとJSMAに共通する姿勢です。



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対話を語るだけでなく、対話を経験する


河瀨直美プロデューサー
河瀨直美プロデューサー

フォーラム第3部では、河瀨監督による来場者との公開対話も行われました。あらかじめ答えの定められていないやり取りのなかで、言葉が生まれ、思いが交わされ、時には沈黙が訪れる。それを見守る人々もまた、それぞれの経験や記憶に思いを巡らせていたのではないでしょうか。

対話する当事者だけでなく、その場に居合わせ、対話を目撃する人々にも、何らかの気づきや変化が生まれ得ること。

それは、Dialogue Theaterが提示した重要な問いの一つであり、今後の研究においても探究していきたいテーマです。



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芸術の実践から、社会に生きる知へ


今後、SMRCでは、今回の探索的調査を踏まえ、万博で行われた1,633回の対話記録の分析を進めていきます。どのような相互作用が生まれていたのか。対話の質を形づくる条件とは何か。対話の経験は、当事者や目撃者にどのような意味をもたらすのか。こうした問いについて、理論と実証の両面から検討を重ねていきます。

私たちが目指しているのは、芸術が生んだ対話を一つの尺度で評価したり、その豊かさを単純な数値に置き換えたりすることではありません。

一つひとつの固有の経験を尊重しながら、そこに見いだされる価値や作用の仕組みを探究し、新たな問いを生み出すこと。そして、そこで得られた知見を、教育、医療、地域社会、組織など、人と人との関わりが求められるさまざまな場へとつなぐことです。


ソーシャルマーケティングは、人々が自ら納得して、本人や社会にとって望ましい行動を選べる条件を整えることを通じて、社会的価値の創造を目指します。その基盤にあるのは、一人ひとりの思いや価値観に耳を傾け、相手を理解し、ともによりよい選択肢を見いだそうとする姿勢です。だからこそ、私たちは「対話」を重要な研究テーマと位置づけています。


研究で浮かび上がった問いを登壇者・来場者と共有。1,633回の記録分析へと研究を進める。
研究で浮かび上がった問いを登壇者・来場者と共有。1,633回の記録分析へと研究を進める。

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対話の未来を、次世代とともに


フォーラムの最後には、JSMAの学生会員でもある橘川雄吾さんが言葉を届け、若い世代とともに対話の可能性を考え、社会へつなぐという本フォーラムの方向性を印象づけました。

刀根さん、山本さん、橘川さんの参画は、次世代が対話の価値を受け継ぐだけでなく、自ら新たな実践をつくっていく可能性を示すものでした。



意見や価値観の違いが、時として人々の分断につながる現代社会。異なる他者と出会い、自分の前提を問い直し、互いの違いを認めながら、新たな可能性を見いだすこと。そのために、対話はどのような役割を果たし得るのでしょうか。

今回のフォーラムは、その問いに一つの答えを示す場ではなく、多様な立場の人々が問いを持ち寄り、ともに考える新たな出発点となりました。


いつの日か、「分かり合えない」や「分断」という言葉が、過去のものとして博物館に並ぶような未来を思い描きながら、私たちは次世代を担う若者たちとともに、対話の本質と可能性を探究し続けます。


芸術が生んだ対話の実践を、未来につながる知へ。

そして、その知を、よりよい社会を共創する力へ。


同志社大学ソーシャルマーケティング研究センターは、これからも学問領域を横断する研究と社会との協働を通じて、Social Goodの実現に取り組んでまいります。



最後になりましたが、本フォーラムの開催にご尽力くださった関係者の皆さま、貴重な経験を研究にお寄せくださった対話者の皆さま、そして雨のなか足をお運びくださった皆さまに、心より御礼申し上げます。


SMRCセンター長 瓜生原葉子





 
 
 

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